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「お疲れ様です」
そう挨拶し終わる前に、奈都の顔が強張った。
「主任が食堂だなんて珍しいですね」
凛子が言うと、別の男性、もとい馬場がテーブルを半周して空席を埋める。
奈都の隣だ。
彼女の体までも強張った事を凛子が覚らぬ筈がなかったが、断るのはかえって不自然な気がして馬場の着席を迎え入れる。
「いつもは昼は外に出る事が多いんだけどね。本社には立派な食堂があるから、折角だから利用しなきゃと思って。
西浦さんと羽野さんはよくここで食べてるの?」
「…はい」
『よく』と表現するよりもさらに高い頻度で食堂は利用しているが。
凍ったまま奈都が頷くと、馬場に微笑が浮かんだ。
凛子が他の男性社員から“製造部の花”と呼ばれているなら、こちらは“王子”のスマイルといったところか。
「噂では昼は賀集リーダーと一緒にいる、って聞いたんだけど」
「…噂?」
噂も何も事実そのままだ。
陰で言われて困るようなやましい事は断じて無いが、あまり気分の良くない単語に凜子の眉が訝しげに寄った。
「ごめんね、表現が悪かった。僕が西浦さんの居場所を、たまたま近くに居た設計部の子に訊いたらそう返ってきただけだから」
微笑を崩さぬままの平謝り。
優しくこまやかな大人の男性というイメージだったが…。
何だか食えない奴――直感的に凜子の脳裏に馬場の印象が刻まれる。
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