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「賀集なら今あそこに並んでますよ」
「彼は社食のメニューなんだね。西浦さんと羽野さんはお弁当か…。二人は賀集リーダーにお弁当を作ってあげたりとかしないの?」
「はいっ?!」
上司相手には失礼な頓狂な声が上がった。
「まさか。私はただの友達ですよ」と、凛子は冷静な返答だ。
さあ奈都、アンタは何て言うの――内心でそう探りながらの凛子が静かに見守る。
「…へぇ、二人とも料理上手なんだね」
「――!!」
馬場が奈都の弁当箱を覗き込むように体を寄せた。
金属加工現場で働く者からとは信じられないくらいの、良質かつ清爽な香りが鼻孔を掠める。
近い。近すぎる。さすがにこの間合いは傍目にも至近距離と言える。
どうやら女性社員にかなりの人気だと聞いた。
周囲の社員に変に勘繰られなければいいが。
「…え、えっと、賀集との関係はそういう…」
「あれー?主任もここで昼ですかぁ?」
間延びした低い声と共にドンッと響いたかと思うと、それは社食用のトレイがテーブルに置かれた音であった。
「はは、噂をすれば何とやらだね、賀集リーダー。それとも、慌てて飛んできた?」
相変わらずの軽い笑みは余裕の表れか。
対面の賀集は無言で椅子を引き、やはり無言で眼鏡を正して温かいうどんを啜る。
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