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「とりあえず食べ始めよっか」
促した奈都が広げたのは持参の弁当、賀集はコンビニの生姜焼き弁当だ。
「うわ、今日のランチ生姜焼き定食だったのか。買ってこなくて良かったな」
「わー本当だ、美味しそう。凛子ちょっと交換してよ」
「いいけど、アンタの卵焼きと煮物ちょうだいね」
三人それぞれ違うものを頬張って、時にはおかずを交換し合って同じテーブルにつく。
新卒で入社以来ずっと続いている、本人にも周囲にもお馴染みの昼休憩の光景である。
「そういや賀集、さっき言いかけてた事って何?」
「えっ」
突如投げられて固まった。
「…はは、何だっけ。内容忘れたからもういいや」
「ふーん。じゃあ思い出したら教えてね」
ああ、と頷く賀集に凛子がジト目を送っている事に奈都は気付いていないようだ。
「ところで奈都。アンタ先週の金曜日の合コン、設計部の子に誘われて行ったみたいだけど結果どうなったの」
「どうなったも何も…」
聞きながら平静を装う賀集だが、手と口の動きがすっかり止まっている事に本人の自覚は無い。
「相手の誰からも連絡一切来てないよ。こっちからもするつもりないけどさ。
ていうか、私またやらかしちゃったんだよね」
「まさか金属オタク披露したの?!」
「相手グループの一人がスケルトンウォッチしてて、ムーブメントがあんまりにも格好良くて…つい」
「歯車がどうとかゼンマイがどうとか語っちゃったわけね」
こくり、と奈都の首が素直に振られると、凛子は空いている左手で自身の額を抱えた。
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