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と、奈都が弾かれたように顔を上げた。
「忘れてた!私、午後イチで搬出の欠員出てるとこのヘルプ出なきゃいけなかったんだ!」
「え、なら休憩早めに切り上げて支度しないと」
凛子に急かされるまでもなく大慌てで、だが一つ一つのおかずをきちんと味わうように器用に頬張る。
空になった弁当箱を急いでまとめて、奈都が席を外すと嵐が去った後のような静寂が訪れた。
「いつも元気に仕事するわね奈都は。
…それにしても。賀集ってほんっとタフよね。その逞しさは尊敬に値するわ」
「羽野(はの)、それって褒めてんの」
一瞥した賀集が呼んだのは凛子の苗字だ。
「当たり前でしょ。
あんだけニブい25歳を入社以来一途に想えるなんて奇特よ。天然記念物よ。世界遺産よ」
「それ人間を賞賛する名詞じゃないけど」
どうせ褒めてくれるなら人間国宝にしてくれ、という請いはするだけ空しい。
製造部イチの美人、高嶺の花、男性社員間では憧れのマドンナに位置付けられている凛子は年中かまわず舌鋒鋭い。
こうして昼の休憩時間を同じテーブルで過ごす習慣から、他の男性社員に羨ましがられたりもするが。
毒舌家だって正体知らないから憧れでとどまってるんだよ―――賀集は内心舌を打つ。
高校時代は同級生だったという奈都の情報を、時折教示してくれる事に関しては感謝しているけれど。
「羽野」
皿に残っている、生姜だれに浸った千切りキャベツを片す凛子が再び呼ばれた。
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