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「此処ね」
その建物とティオルラから貰った紙に指し示された場所を照らし合わせ、葵が呟くように言った。
その言葉に呼応するように数人が頷き、そして全員がその建物を見ていた。
廃墟、と表現するには綺麗で大きな建物だった。
風化も少なく、外装の白さも自然に汚されきってはいない。
街からの遠さと、独創的な造りという問題点がなければ、すぐにでも買い手が現れるかもしれない。
誰もいないはずの建物からは僅かな人の気配、そして確かな魔力がそこにはあった。
「さっさと行った方がいいんじゃないのか?」
肌寒い風が吹きぬけ、その音が聞こえるぐらいに皆が黙っていると、カグラがそう言った。
この場に立つ彼だけが、皆と少しだけ違う意志で立っている。
だからこそ冷静で、的確な考えを彼は述べた。
「相手はクロノ・ベルに事後承認を取ろうとしているのだろ? おそらく、申請は終えている。だとしたら、申請が承認されるまでに救い出さなければゲームオーバー……その時間は、此処で談笑している時間も含まれているぞ?」
彼の言葉を皆が聞き、そして改めて建物を見る。
決意を固めるように、意志を確認するように――
「カグラの言うとおりだね。行こう……コルドアを救いに」
いつもの明るい口調を消し、フェイトが言った。
そして、彼が歩みだすと、他の者も続く。
重なる足音は一つになり、大きくなっていく。
それは、クロノ・ベルが鳴らす鐘よりも一足早い、戦いの合図であった。
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