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ぬっ、とレミーの顔を覗き込むように視界に現れたのは葵が戦った相手である青年だった。
彼は口を開くことなく、じっとレミーを見ている。
「応急処置を頼みたいんだけど」
「意味不明」
鳴神に依頼は即座に拒否された。
しかし、拒否した傘という青年はレミーの片手を見て、少しだけ表情をしかめた――気がした。
「そこを何とか頼みたいんだけど」
「理由」
「勝者のご褒美、といったところだけど」
「弱い」
「……正直に言うと感服した、ところだけど」
鳴神はレミーを一瞥し、傘へと視線を戻す。
そして、続けた。
「たった一人の他人を友達、という理由だけでここまで戦った彼、そして、彼女に感服した。それは傘も同じだと思うけど?」
「…………」
「この両手も、その結果。このまま見て見ぬ振りをして動かなくなってしまった……なんていうのは、敗者としても、一人の男としても情けないと思うんだけど」
鳴神が話し終えると、傘は息を一つ吐く。
そして、
「完治不可」
そう言うと同時に彼の両手に水の塊が現れ、投げ捨てるような動作と共に、その水がレミーの両手を包んだ。
ひんやりとして、心地よい感触を彼は黙って感じていた。
「それで今より悪化することはないし、多少の治癒にはなると思うけど」
「……礼は……言わないぞ」
「欲しくもないんだけど。さて……」
鳴神が立ち上がると、このフロアにある階段を見つめて呟くように言った。
「連れて行っても良いけど? そろそろ最終決戦だ」
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