0人が本棚に入れています
本棚に追加
「泥棒だよっ、そのガキ! なんてヤツだろうねっ! 人様のものに手を出すなんてっ! まったく、親はどういう教育してるんだいっ! ちょいとっ! あんたたちっ! そいつを捕まえとくれよっ!」
背後で響きわたった耳障りな悲鳴に、首をすくめる。
ふん。
ヒステリックなババァだよ。
あんなところに荷物をおいておく方が悪いのさ。
まあ、けど。
とっつかまるのはごめんだぜ?
だろ?
聞き飽きた説教なんざ腹の足しにもなりゃしねぇ。
親の教育?
笑わせてくれらぁ。
なぁに、裏路地に入っちまえば、逃げ切ったようなもんさ。
アイツらはここまで追いかけてきやしない。
そうさ、ここは俺たちの縄張りだ。
このレインズストリートはな。
「こっちだ、カウェン!」
細く入り組んだ裏路地街。
先をいく相棒のディリスも、このレインズストリートの生まれだ。
奴のおやじが、俺とディリスにこの町で生きていく方法を教え込んだ。
盗みに揺すり、たかりはもちろん、時には殺しもな。
穏やかじゃねぇだろ?
つまりはそういうところなのさ、ここは。
俺は、自分のおやじの顔を知らない。
おふくろも、ずっと前に死んだ。
理由なんか、知らないさ。
死んだったって、そう聞かされただけ。
事実がどうかなんてわかりっこない。
結局のところ、ある日突然俺は一人になってた。
確かなのは、それだけだ。
ディリスのおやじがどうして俺を拾ってくれたのかは知らないが、さもなきゃ俺はとっくに野垂れ死んでたろう。
ヴェニセスの冬は、厳しい。
五つや六つの子供が身一つで生き抜けるようなもんじゃない。
けどまあ、俺は、おやじに拾われて――そっからは、ディリスと兄弟同然に育った。
そのおやじも、結局は、去年死んだがな。
ちょっとしたへまをやらかしたのさ。
それこそ――狙った相手が悪かった。
それだけの話だ。
ああ……話が逸れたな。
複雑に曲がりくねった道でも、俺たちにとっては、庭も同然。
ずっと昔に打ち捨てられた廃屋が、今の俺たちのねぐらだった。
当然、雨漏りもすれば隙間風も吹くような、粗末な小屋だが。
ま、屋根のあるところに住めるだけでも、ここじゃ幸運ってもんだ。
最初のコメントを投稿しよう!