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 泣いているんだ。  凄く悲しそうに  声を押し殺して  泣いているんだ。  そんな夢をここ最近よく見る。  それが酷く悲しくて胸が引き裂かれる想いをする。 「何で今頃思い出したかわからないんだ。もしかしたらずっと前から心の何処かで会いたかったのかもしれない」 「············」 「うん。もしかしたらじゃなく本当に会いたいんだと思う。あたし·····まだその子の事好きなんだろうね」  思い出したのではない。  すごく大切な思い出だから忘れるわけがなかったのだ。  春日町に越してきて離れ離れになって初めて聖月と対面した時あまりにもその子に似ていて思わず泣いた記憶。  その頃、凄く聖月に迷惑かけたと思う。 「もしかしたらその街に行けばまた会えるかな?」  街は小さかった沙乃にとって何処かは覚えてはいなかったが両親に聞けばきっと教えてくれるだろう。  今年の夏休みに行ってみようかと一人で盛り上がっていた。 「·······あのさ、沙乃。その事なんだけど「あれ?お前ら起きてたの?」」 ガラっとベランダの扉を開けたのは寝起きの史也だった。 「おはよ史!」 「おぅ、おはよ。何だよ沙乃。抜け駆けか?」  聖月の中指にはめられたシルバーリングを見てニヤニヤ笑う史也。 意外と目ざとい。 「ま、俺はちゃんと0時丁度に渡すけどな」 「半眉ピアスの癖にそこだけキッチリしてるよね」 「半眉関係ねぇだろ!?って言うかこれ逆八眉っていうの!」  史也なりのお洒落なのだ。逆八眉にピアス、髪の毛は茶髪とツーブロック。耳のピアスは三連。    もはやなんと言うか·····短髪黒髪スポーツ系の熱血そうな森信となんで友達やっているのだろうと聞きたくなる。 「目付き悪いし、ぶっちゃけただのヤンキーだよね」 「お前に言われたかないわ!」  同じ髪色をしている沙乃にだけは確かに言われたくないだろう。  沙乃も史也も今時の派手顔で校則に縛られたくない性格な為、よく教師に目をつけられる。  沙乃については明るく染めた長い髪を結ぶわけでも無く、つけまつげもカラコンも着けて学校に堂々と登校してくるわけだから担任は常に胃薬を持ち運んでいる程に悩んでいる。
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