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放送部室から出て、
渡り廊下に差しかかったところで、
スピーカーから更科くんの
下校放送が聞こえて来た。
立ち止まり、手すりに
手をかけ、撫でる。
入学式の日、ここで
桜を見ていたあの時は、
…まだ、何も知らなかった。
恋をするということが、
どんなに甘くて、幸せで、
…どんなに苦くて、
痛いかなんて…。
春山先生を愛しいと
思えば思うほど、
苦しくてたまらなくなる。
こんな矛盾が恋だなんて、
わたしはあの時、知らなかった。
一歩足を踏み出して、
あの日見た、遠い桜の木を
見つけようとした時だった。
「おい」
突然の声に、わたしは
驚いて辺りを見回した。
「…違うって。…こっち」
手すりに掴まり、
下を覗き込む。
「…せんせ…」
春山先生が、あの日と同じように
自動販売機の前に立っていた。
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