番犬は飼い主に会う

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一学期の終わり頃、おれは神無月の席の前の加藤に声をかけた。 こいつは同じサッカー部員だ。 「な~。加藤。お前の席、おれに譲らね?」 「はぁ?なんで?」 あっけに取られたように加藤がおれを見る。 「神無月、頭いいから。勉強教えて貰えそうじゃん?」 「いや、ムリだろ。あいつしゃべらないぞ、マジで。おれ、続けて3言以上話したの聞いたことないぞ。」 お前なんかに話す必要ないだろ。 なんて思いながらにこにこして言う。 「3000円でどうよ。」 加藤が嫌そうに顔をしかめる。 「お前、何?神無月に惚れてるの?ホモなの?」 「いや?違うけど。」 そんな軽い気持ちだったらいいんだけどな。 「いや、おかしいだろ。」 おれはわんこみたいって言われる顔で笑って言った。 「神無月の前の席にいたい加藤はホモ?」 「いや、違うし!!」 ムキになった加藤に畳みかける。 「んじゃいいじゃん。」 「ああ~なんかもやもやする。」 こういう時は迷わずBETだよな。 「じゃあ4000円で。」 「マジ?マジなの?」 おれはへらへらと笑うと財布から1000円札を4枚引っ張り出した。 「ほい。」 高校生は現生に弱いよな。差し出す金を加藤はさっと取った。 「もう1枚?」 加藤がおれを試すみたいに言う。 おれはへらりと笑うと、もう1枚札を出した。 「交渉成立?」 加藤は頷いた。
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