番犬は飼い主に会う

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入学式の後、初めての教室、自己紹介の時、そいつは言った。 「神無月七重です。趣味や特技は特にありません。」 落ち着いたきれいな声が、そう言った。 無表情なまま、ストンと腰かける。 どこを見るわけでもなく、真っ直ぐ黒板を見ている。次のやつが話しはじめても、視線はゆるがない。 視線を感じたのか、微かに頭が動いておれを見る。 ただそこにあるものを、何の興味もなく一瞥した。 それだけの瞳がおれを掠めて離れて行く。 女の子のような名前、女の子のような顔、でも、華奢な身体は男子の制服を着ていて、ストレートのショートカットも低い声も男子のもので、神無月七重は確かに男だった。 休み時間、他のクラスの持ち上がりの奴等と違って、受験や推薦で特待生になったおれたちのクラスは、新しい友達作りっていうムードになっていたんだけど、その中で、神無月は悠然と真新しい教科書を読んでいた。 勇気のある女子が神無月のメアドを聞いている。 「携帯は持っていないんです。」
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