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「先日は誠に申し訳ありませんでした。あの事はどうか忘れてください」
ペコリと頭を下げ、自分の席に着く。
しかし、どうあがいても坂崎君は隣の席で……。
「言い逃げするの、やめてくださいよー」
数秒後には私の隣にちゃっかりと座る坂崎君。
私にはもうこれ以上言いたいことはない。
両手で顔を覆うと、はぁぁと大きく溜息。
「先輩、そのメガネとお団子頭やめませんか?
この前みたいに、メガネ取って髪下ろした方がずっといいと思いますけど」
ピンと私のお団子を指先で跳ねると、坂崎君はニコリと微笑む。
「……このままでいいの。どうせ着飾ったところで、彼氏ができるわけでもないし」
彼氏ができても前に進めない。
体を触れ合うことができないなら、結婚して子供だって望めない。
「それって、例のアレルギーのせいですか?
だったら、アレルギー反応の出ない僕なんて適任じゃないですか」
「そういう簡単な問題じゃないのよね」
どうせ結婚するなら、好きな人としたいじゃない。
何が悲しくて、坂崎君と結婚しないといけないの?
旦那が一生自分より6歳も若いなんてアリエナイ………。
せめて坂崎君が1つか2つ年下だったらよかったのになぁ。
────それに。
「もう、私に仕事以外で話しかけないでくれる?」
さっきから気になる、周りの視線…。
女性社員に人気のある坂崎君ファンの差すような視線が痛い。
「ただでさえ、“お局”扱いされるお年頃なんだから。お願いだからほっといて」
「───やだ」
その返事に坂崎君を見ると、むすっとしてパソコンの電源に指を伸ばしていた。
『やだ』……なんて、また可愛らしい言い方するんだから。
言いたいことは山ほどあったが、もう始業開始まであと数分。
言葉を飲み込んで、仕事に集中することにした。
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