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「…………………い……」 「…………………ぱ…い」 まどろみの中で声が聞こえる。 耳元で響くこの低くて心地よいいい声は…誰だっけ? ええと…。 あぁ、そうだ。 隣の席の坂崎君だ。 「……先輩………起きてください」 坂崎君の困った声とともに、肩を揺すられた。 いっけない、私、寝ちゃったんだ。 仕事中なのに…。 眠くてしかたない。 体も気だるい。 あ、そうだ…昨日は飲み会だったんだ。 飲み過ぎちゃったかな。 磁石のようにくっついたままの瞼をなんとか開きながら頭の中を整理する。 「う…ん……ごめん。坂崎君。そこの書類、今日中に………」 今日中に…なんだっけ? 体をくるっと反転させると、そこには視界いっぱいの坂崎君。 ちょ、ちょっと!距離、近くない!? 余りの近さに驚いて、思わず坂崎君の胸を押した。 掌に伝わる、落ち着くような体温。 「……あ……れ……?」 直接掌から伝わったのは、彼の体温と柔らかい肌。 それも素肌。 視線を掌に移動すると、ほどよく筋肉のついた坂崎君の胸板が、隠されることなく晒されていた。 「……えっとぉ……坂崎君?」 「はい?先輩?」 整った坂崎君の顔が、至近距離できょとん顔になる。 「ど…どうして………裸なの?」 一番の疑問を坂崎君にぶつけてみた。 「どうしてって………先輩も素っ裸ですよ?クスッ」 返ってきた言葉を頭の中で反芻する。 素っ裸…? な、何!? どういうこと!? 思い切り目を見開いて辺りを見渡す。 「……ここ……会社じゃ……ない」 見慣れた天井。 見慣れた照明。 見慣れたベッド。 会社ではないけど、私の住み慣れた部屋だ。 そのベッドに…坂崎君と並んで寝ている。 ─────寝ている!?!?!? 慌ててガバッと上半身を起こすと、頭に鈍い痛み。 「────痛っ」 …この痛み、二日酔い? 顔をしかめて頭を掌で押さえると、見えたのは露わになった自分の胸。 …あ。 ……本当に裸だ。 冷静に納得していると、くすくすと坂崎君の笑い声が聞こえてきた。 「先輩って着痩せするんですね~。意外と胸あるし」
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