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「じゃあ、あとよろしく~」
武志の言葉に俺はハッとする。
しかし武志と笹原は腕を組んでもう二人の世界を作り、夜の街へと歩き出していた。
「ちょ、こいつ、どうするんだ!?」
俺の左肩に担がれている千歳を指差して訴えてみるが、沙耶は眉をしかめただけで、
「どうぞお持ち帰りください」
とニヤリと笑う。
おいおい、何言ってんだよ!
お前、友達だろ??
「し、信司!」
残った信司に助けを求めるが…。
「俺はこの人妻を無事送り届けないと。康太さんに殴られる」
そうだった、田中の旦那の宇田川康太さんは、信司の大学の先輩だった。
「じゃあね~」
愛想良く手を振り、信司と田中もタクシーを拾って乗り込み行ってしまった…。
「……薄情者どもが……」
呟いてみてもどうにもならず、とりあえず酔い潰れた千歳のバッグを持つとおんぶの体勢にして歩き出した。
「────俺、こいつの部屋知らないんだよ。ったく」
幸い、近くのビジネスホテルを取っていた。
仕方ない、とりあえずホテルに向かうか。
「……人の気も知らないで」
俺に体を預け、すやすやと眠る千歳に呟く。
あの5年前以来、久しぶりの再会だった。
千歳にとっては忘れたい想い出かもしれない。
あれから俺も転勤になったりでなかなか千歳と顔を合わせる機会はなかった。
どんな顔して千歳に会えばいいのか分からなかった。
でも俺は────。
あの時伝えられなかった言葉を飲み込む。
「……メグ~……」
背中の千歳が小さくそう言った。
寝言かよ。
俺のことを《メグ》なんて女みたいなあだ名で呼ぶ幼馴染。
千歳………まだ俺のこと幼馴染って思っているのか?
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