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最後のカーテンコールの映像が流れた後、またもや私は感動で涙を流していた。
差し出されたティッシュで鼻を抑えながら、涙を拭きとる。
さっきまで感動の気持ちでいっぱいだったけれど、もう終わりが見えてふと現状に気が付くと居ても立っても居られなくなってきた。
どうしよう、私――
そう思っていたら、真っ暗な画面に切り替わってDVDプレイヤーが停止した。
静かに立ち上がると、刻也さんはプレイヤーからDVDを取り出してボックスに仕舞っている。
その後ろ姿を見ていられなくて、気持ちを落ち着けるべくグラスに入ったお茶を飲んだ。
何となく気分を落ち着けるために、今日はハーブティーを持ち込んでみたけれど……あまり効果がない。
手持無沙汰になりながら、どこに視線を移していいのかもわからず膝上で組み合わせた手を見つめていたら声がかかった。
「萌優」
片付けが終わったのだろうか、刻也さんの足が視界に映る。
このまま私が顔を上げれば、刻也さんがいる。
そう思うと、ドキドキしすぎて顔があげられない。
俯く私の右頬に沿って、刻也さんの手が触れる。
その指先が耳の後ろに触れると、ぞわりと身体が震えた。
何度も私に触れるその指は、時々いたずらが得意で困る。
耳たぶを何度か摘まむと、横に落ちた髪を耳にかけて指の腹で顎のラインを辿りながら滑り降りてくると、頤を掴まえて私の顔を少し上げる。
それだけで私の顔が赤くなっていって、蒸発しそうなくらい熱くなることを分かっていてやっているんだろうか。
少し上向いた顔が刻也さんの方を向かせようとしているのは分かるけれど、抵抗するように私は視線を横に逸らした。
「萌優」
また私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
それに何と言っていいのか分からなくて、口をきゅっと閉じた。
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