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「まだ駄目か?」
「え、えとあのっ、そういうわけじゃ」
「じゃあいいだろ。もう待ちきれない」
掠れた声でそんなことを言われたら、身体に熱が灯る。
私だってもう、刻也さんの全てを受け止めたかった。
ただ、ココじゃ嫌だってだけで。
「あのね。ここじゃなくて、その……」
ベッド、行きませんか?
なんて自分の口からは恥ずかしくて言えない。
けれどそんな私の意向を察してくれたのか、刻也さんは私の腕を引っ張り上げると、いとも簡単に抱き上げて廊下を歩きはじめた。
「ひゃあああっ」
叫ぶ私を余所に、嬉しそうな顔をして歩く刻也さん。
人生でお姫様抱っこを経験させてもらえるなんて思いもよらなかった。
けど、これってしがみ付いていないと恐ろしいほど怖い。
「お、下して。ある、歩けますからっ」
そう訴えるけれど、全く聞こえないのか刻也さんは私を見ない。
もう何も言えなくて、ぎゅっとしがみつくと丁度耳元に私の唇があたる。
――覚悟を決めるしかない。
だって、私に触れたいと願う彼の気持ちに触れて、私の気持ちも身体も高ぶっているのは事実。
このまま彼に流されたいって思っているのが本音だ。
寝室に入り、どさり……と下されたのは、もう何度目かの彼のベッドの上。
彼の首に巻きつけた腕を離す前に、私は唇の触れた耳元で囁いた。
「私の全部、もらってください」
そう言って腕を離すと、刻也さんはふわっと優しく微笑んだ。
「萌優」
私の名前を呼ぶ彼の声が、ただただ甘い。
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