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それなのに、どこか心地よくて安心する。
――これって、刻也さんだから……?
「あったかいな」
私を抱きしめる刻也さんの声が、頭上から聞こえた。
「え……?」
「いや、お前あったかいなーって思って」
「そうですか?」
「俺さ。こんな風に思ったことなくて」
「……」
「いざ、萌優を前にしたら震えてきた」
「そんな」
「大事過ぎて、怖い」
ぎゅうっときつく抱きしめられて、思わず息を止めてしまう。
刻也さんは昔私以外の人と……なんて想像したくないから、言葉が出なかった。
でも、それもあって今の刻也さんがいて、そして今は私だけを想ってくれている。
想い過ぎて指先を震えさせる彼に、私は愛しさがこみ上げてきた。
そっと左手を脇の下から差し込んで背中に回す。
ゆっくりとその背を撫でてぎゅうっと抱き着いて、胸元に額を擦りつけた。
「大丈夫ですから。私、頑丈ですこれでも」
私が表現できる精一杯で、彼に大丈夫だと伝える。
本当は少し怖い。
もう二十歳も過ぎてって言われようと、初めては何かしら怖いのが世の常だ。
小さく震えてしまわないかとドキドキしながら、さらに体を寄せると安堵の息を吐いて、刻也さんがフッと笑った。
「ん……そうだな」
今度は額にキスが落ちてきて、そのまままたバサリと布団が音を立てたと同時に、私の上に彼が跨る。
「なるべく、努力するけど」
「どりょ、く?」
「泣かせたら、ごめんな」
「っ――!」
言われたことの意味が分かって、少しパニック気味に赤面した。
真っ暗闇で見えないと思うけど、それでも恥ずかしくて両手で顔を塞いでしまう。
「顔、見せて」
両手を取られると、メガネを外した彼の顔が至近距離に現れた。
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