1134人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
「茅原さん聞いてる?」
急に視界に怪訝そうな顔をした悟が視界に飛び込んできて、私は驚きのあまり小さく仰け反りながら目を見開いてしまった。
悟の手にはさっき私が作った資料が持たれている。
仕事中にも関わらず昨日の事を思い出し、気持ちがどこかに行ってしまっていたのだ。
「大丈夫か?何かボーっとしてるぞ」
気持ちを切り替え資料に目を落とす私に悟は心配そうに様子を伺ってくる。
「うん、大丈夫。ごめん、何?」
仕事以外ではあまり関わりを持たないようにしている私はサラリと答えると、すぐに仕事に話題を切り替える。
こうして仕事の話をしていると大丈夫なんだけど、急に話しかけられたりしたら一瞬ドキッとしてしまう。
悟がココに来て数日経つが、いまいち慣れないのだ。
その上こうして話していると、まるで昔に戻ったかのような懐かしさを覚えてしまう。
「咲穂?」
不意に名前で呼ばれ、不覚にも胸がときめきに似た心臓の高鳴りを感じてしまった。
「名前で呼ばないで。ここは会社だし、もう何でもないんだから」
速鳴る鼓動を悟にバレないように平静を装いながら冷たく指摘する。
悟はすぐに「ごめん」と謝り言い直してくれたが、私の鼓動はなかなか治まってはくれず私を苦しめた。
.
最初のコメントを投稿しよう!