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「それならいいけど、振り返っても良い事なんて何一つないって事は忘れない方がいいよ。咲穂には各務さんが居るわけだし……」
明らかに半信半疑な様子で、さり気なく私に釘を刺してくる。
「分かってるよ」
さっきよりはハッキリとした口調で答えると、容子も少しは安心してくれたのかホッとした顔を見せてくれた。
私も笑い返して見せたが、内心穏やかではいられない―――心の中に渦巻く葛藤と困惑。
「分かったんならいいの。さ、食べよ」
少し落ち気味な場の空気を盛り上げるかのように、パッと話題を切り替えテーブルいっぱいに並ぶ料理に箸を伸ばし食べだす。
私もお腹が空いている事に気づき、容子につられるように料理に箸を伸ばそうとするが引っ込める。
「容子……ユキには悟のこと話さない方がいいのかな?」
一番迷う所はコレ---ユキに話すべきか、話さぬべきかって事。
「うーん。別に隠す必要はないと思うけど、敢えて言うのもね……」
食べる手を止め、容子は小さく唸り声を上げながら難しい顔をする。
「でも三上さんがこっちに居るのは一時的なものなんでしょ?それなら別に言うほどのことではない気がするけどな私は。あとは咲穂が決めな」
容子も私とは同意見で、やっぱりコレ!っていう決定打はくれなかった。
結局、私の中からモヤモヤが完全に消えることはなかったが、容子に話したことで少しは心が軽くなる事ができた。
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