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「ただいま……」
急に降って湧いてきたような言葉に私は驚き、身体を小さくビクつかせてしまった。
我に返り顔を上げると、私以上に驚いた顔のユキが私を見下ろしている。
「あ、お帰り」
どうやら完全に自分の世界にどっぷりと浸ってしまい、ユキが帰ってきたことに全く気づけなかったようだ。
「どうした?ボーっとして」
ソファーの脇に持っていたカバンを置くと心配そうに私の顔を覗き込みだす。
「ううん、何でもない。ただちょっと眠かったから……」
まさか悟の事を考えていたなんて口が裂けても言えず、咄嗟に嘘をついてしまう。
でも心配してくれているユキに気づき、すぐに深い後悔の念に襲われる。
「眠いなら先に寝てればいいのに……。こんな所でうたた寝してたら風邪引くぞ」
少し呆れたような笑みを洩らすユキの顔から私に対する優しさが滲み出ていて、居たたまれなさを感じる。
「うん、今度からそうする」
嘘をつくのが苦手な私。
今にも顔に出てしまいそうで、内心ビクビクしながら何とか笑って見せ、逃げるように寝室へ行こうと立ち上がった瞬間、ユキの口から信じられない言葉が発しられた。
「本当に眠かっただけ?」
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