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「咲穂!」
急に名前を呼ばれ、驚きのあまり思わず立ち止まってしまう。
背中にはひしひしと悟の強い視線を感じ、逃げ出したい気持ちでいっぱいになるが、動くタイミングが見つからない。
立ち尽くす私に悟はゆっくりと少しあいた距離を詰めてくるのが分かる。
すごく近くに感じる悟の気配に私は振り返ることもできず、背中を向けたまま立ち尽くす。
「やっぱり一度ちゃんと話したい。時間を作ってくれないか?」
私の様子を伺うようにたどたどしい悟の言葉が私の胸をざわつかせる。
もう悟とは終わった事なんだから何も話すこともないし、聞きたくもない。
でもこのまま逃げてばかりいたくないって気持ちもある。
もう過去なんだから……
もう関係ないんだから……
本当はそう自分に言い聞かせ、誤魔化し続けているだけに過ぎない。
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