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――…
―…
「咲穂さん帰らないんですか?」
気づくと忘れ物でもしたのか、すでに着替えを終えた志帆が不思議そうに私を見ていた。
「あ、うん。帰るよ」
慌てて机の上を片し、帰る準備をする私に「お先に失礼します」と軽く頭を下げ帰って行く。
事務所を軽く見渡すとすでに悟の姿はなく、それが私の気を重くする。
あんな返事をしたのに行くことに億劫になっている。
「あんな言い方するから気になるじゃない……」
独り言のように呟くと深いため息をひとつ溢し、約束をしたからには行くしかないと重い腰を上げ事務所を出る。
さっき悟は待ち合わせの店をしてするのに"あの店"と言い方をした。
あの当時、社内恋愛だった私達は人目を避けながらも会社帰りに待ち合わせて会っていた。
多分その時に待ち合わせに使っていたお店の事を言っているんだと思う。
深読みしすぎだろうか……
それとも……
「気にし過ぎ……気にし過ぎ……」
まるで自分に言い聞かせるように口に出して言うと、気持ちを切り替え悟が待つ店へと急いだ。
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