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すごく久しぶりだった。
悟に振られてから私は自ら足を遠ざけ、思い出のいっぱい詰まっていたこの店を避け続けていた。
ぶっちゃけ別れる前……
転勤したての頃は逆に寂しさを誤魔化すために悟との思い出の場所に1人足を運んでいた事はあった。
今思えば私も可愛い事をしていたなって思うが、振られたときは何も知らず1人で店に通っていた自分が愚かで滑稽に思えていた。
そんな場所にまたこうして足を運び、悟と2人で待ち合わせをする日が来るなんて思いもしなかった。
2年ぶりに来た店はほんの少し古びた気もしたが、看板も外から見た店の中の様子も何一つ変わってはいなくて、何故かホッとしてしまった。
私は店のドアの前で立ち止まり気持ちを落ち着けるように深呼吸を一つしてから、緊張の面持ちで店のドアをゆっくり押し開ける。
「いらっしゃいませ」
変わらぬ笑顔と制服で店に入ってきた私を迎え入れてくれる。
ただ違うのは店員の顔。
あれだけ通っていたから店員とも顔見知りに近い状態になっていたが、店を見る限り知った顔は1人もいない。
私は妙な寂しさを感じながら中へと案内しかける店員に待ち合わせ中だということを告げ、悟の姿を探した。
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