縺れゆく歯車

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ユキからの電話は早く終わったから外でご飯を済ませようとのものだった。 元々、お惣菜をと思っていた私にはもって来いのタイミングで、しかもそれがユキとの外食になるのなら余計に嬉しい事だった。 現金かもしれないが、あんなに落ちていた気持ちも疲れもユキの電話一本で吹き飛んでしまった。 そして今、テーブルの上には張り切って頼みすぎたご飯があり、目の前にはユキが居る。 「咲穂も機嫌よさそうだな。何か良いことあったのか?」 美味しさと嬉しさで思わず頬が緩んでしまった私にユキがつられるように笑いながら聞いてきた。 「別に良いことなんて何もないよ。急な仕事は頼まれて1日忙しかったし……」 ユキに言われ、不意に思い出してしまった今日の嫌な事の数々。 つい愚痴っぽく溢してしまったが、ポンと悟の顔が出てきた瞬間、我に返り言葉をのみ込む。 「忙しかったし---それから?」 途中で言葉を止めた私に不思議そうに聞き返すユキ。 「ううん。何でもない、忘れた。ご飯は美味しいし、目の前には素敵な旦那様が居てくれてるしで嫌な事、全部吹っ飛んでいっちゃった」 頭の中から悟を掻き消し切り替えると、日頃は言わない甘めな言葉を口にする。 .
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