それぞれの気持ち #2

4/8
1100人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
「お疲れ様です。今、帰りですよね」 まるで俺の帰りを探るかのような言い回しに思わず嫌な予感がよぎり警戒心が働いてしまう。 「ああ。昨日は予想外に遅くなってしまったから、今日は早く帰ろうと思って」 差ほど遅くはならなかったが、相原を敬遠する意を込めて嫌味を混ぜる。 「あ……ですね」 さすがの相原にも俺の嫌味が通じたらしく、少しバツ悪そうに顔をしかめる。 妙な沈黙がエレベータ内に漂い居心地悪さを感じ、嫌味を言ってしまったことに後悔し始めたが、その空気をプツリと切るように相原が口を開く。 「やっぱり各務さん結婚して面白味がなくなっちゃいましたね。1人の人にソコまで縛られちゃうのって窮屈じゃないんですか?」 呆れたようにため息混じりに言う相原に少し前の自分を見ているような気になり笑ってしまった。 「そんな風に思ってしまうのは相原がそれだけの相手に出会ってないからだな。そのうち相原にも分かる日が来ると思うけど……」 エレベータの階数の数字に視線を置いたまま、懐かしむように染々とした口調で答える。 「多分、私には分からないと思います。だって、それは各務さんがそう思える相手と気持ちが通じ合えたからでしょ?いくら想っても通じ合わなきゃ単なる片想いで、気持ちが一方通行で辛いだけじゃないですか」 何かを深く思いつめたような相原の瞳に俺はそれ以上何も言う事ができず、沈黙を守る事しかできなかった。 .
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!