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「まー、たまにはな」
やや意味深なニュアンスを含んだような言い回しに引っかかりを感じたが、単にいつも遅いからというだけの理由なのかもしれないと、追求するのは止めておいた。
「あ、ちょっと待ってね。すぐ作るから」
自分のお腹が小さく鳴った音に、今は何よりも晩ご飯を作らなければいけないと思い出し、慌ててキッチンへと移動する。
「手伝うよ」
いつの間にか手を洗う私の傍らにはユキが居て、スーパーの袋から次々と買ってきたものを出してくれていた。
「ありがとう」
予想外なことに少し驚きながら何だか嬉しくて頬が緩んでゆくのが分かった。
キッチンに2人並ぶとやや狭く感じてしまうが、今はこの窮屈感さえも嬉しく、幸せだなって思ってしまう。
慣れない2人で作ったオムライスは焦げ気味で形もいびつになってしまったが、それも愛嬌。
そして何故かいつもよりも美味しく思えたのは気のせいだろうか。
ずっとすれ違いだったせいか久しぶりのユキとの時間は楽しく一時の間、嫌な事も忘れさせてくれた。
でも幸せな分、不安もついてきて怖くなる---この幸せが壊れてしまうんじゃないかって。
確実に今の負の要因は悟にあって、早く何とかしなければと気だけが焦る。
そしてさっき咄嗟にポケットに仕舞ってしまった悟からのメモを思い出し、ため息が洩れてしまった。
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