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「ご馳走様。惚気話を聞かせたくて私を誘ったのね」
結局そう言う事かと1人納得し、ため息交じりに溢すと志帆から視線を外しケーキを食べだす。
「だって、いっつも咲穂さんの聞かされてるんですから、たまには私のも聞いてもらわないと不平等じゃないですか」
ザマ―ミロとばかりに強気に言い返してきた志帆にムッとしつつも言い返すことができない。
「どうぞ、いくらでも惚気話を聞くから言って」
言い返せない分、開き直ってみる。
じゃあとばかりに志帆が話し出すかと思ったが、意外な事に微妙な反応。
「意地悪ですね。そう言う風に言われたら言い難いじゃないですか」
一瞬、私の嫌み混じりな言葉に苦笑いを浮かべているようにも思えたが、ちょっと違う感じがした。
笑っているのに笑っていない……
笑っているはずなのに今にも泣きそうな顔。
目の前の志帆は何かを堪えるかのように唇をきつく結び、テーブルの上に置かれている手は震えていた。
「---志帆?」
異変に気付いた私は恐る恐る声を掛ける。
志帆は私を見ると力なく笑い、そしてまた悲しげに目を伏せた。
「今、彼の仕事が忙しくてなかなか会えなくて……。でも顔だけでも見たくて、この間こっそり会社の側まで行ったんです。そしたら……」
志帆は言いにくそうにポツリポツリと語りだしたが、やっぱり途中で口を噤んでしまった。
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