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「行ってくる……」
飲み終えたペットボトルをシンクに置くと、ユキは振り向きもせず部屋を出て行こうとする。
「ユキ、ご飯は?」
慌ててユキの傍に駆け寄り、その足を止めにかかる。
「いい……。今日、朝一から会議が入っているのを忘れてて準備したいから」
私の問いかけに足を止めてはくれたが、答えるだけ答えると足早に部屋を出て行ってしまった。
これ以上、ユキの足を止める言葉も見つからず私はその背中を見送ることしかできなかった。
――ユキの様子がおかしい……。
朝から会議だなんて言葉を鵜呑みになんてできなかった。
全く原因も身に覚えもないが、明らかにユキは怒っている――しかも、かなりだ。
私と目を合わせようとしないだけじゃなく、背中から苛立ちがひしひしと伝わってきていた。
「――何?」
原因が分からないだけに取り残された私は混乱しながらも、昨日の記憶を呼び起こし答えを探す。
帰って来たらユキはすでに寝ていて……
記憶を呼び起こそうにも、呼び起こすほどの記憶なんて存在しないことに気づく。
もしかしたら単に虫の居所が悪かっただけかもしれないと思い直し、とりあえず私は軽く朝食を済ませ家を出た。
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