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――色々と……
真っ直ぐ私を見つめる悟から目が離せなくなり、やっぱり私はココに来るべきではなかったのだと思った。
「――私帰る、ね……」
悟から目を逸らせないまま、傍らにあったカバンを掴む。
そしてカバンを手に帰ろうとしたが、それを阻止するように悟の手がカバンを持つ私の手の上に覆いかぶさる。
重なる手と手――振りほどけない……。
思い出す悟の体温に私の鼓動が激しく脈打ち、そして一気に体温を上昇させる。
「ほら、座れよ……」
もう片方の手で私の肩を押し、半ば強引に座らせる。
「どうかしましたか?」
私たちの異変に気づいたマスターが不思議そうに様子を伺ってきた。
「いえ、何でもないです」
渋々カバンから手を離すとマスターに悟られないように平静を装い答える。
そしてマスターが前から居なくなるのを確認し、悟の卑怯なやり方に文句の一つでも言ってやろうと睨む。
「そう睨むなよ。これで最後だから、せめて1杯くらい付き合ってくれてもいいだろ?」
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