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「きついこと言うな……。でも、それだけ今、幸せだっていうことかな」
苦笑いを漏らす悟に、つい思ったことそのまま口にしてしまったことに気づき慌てて口を噤む。
咄嗟に謝ろうとも思ったが、それでは余計に逆効果な気もして下手に何も言えなくなってしまった。
「――なんて顔してるんだ」
笑いながらペチンと私のおでこを叩き、驚く私に呆れた顔をする。
「だって……」
悟に幸せなんだと言われ素直に嬉しい気持ちと複雑な気持ち。
悟に気持ちが残っているということではなく、私が嬉しそうにすると悟があまりにも寂しそうな顔をするから素直に喜ぶことに躊躇いを感じてしまった。
「ごめん……、俺がそんな顔させてるんだよな。今日はそんな顔させるために誘ったんじゃなかったのに……」
まるで自分を落ち着かせるように深いため息をつくと、目の前にあったお酒を一気に飲み干した。
「悟!?」
一気するには強過ぎるお酒。
突然の悟の行動に驚き、目を見張る私に悟は「大丈夫」と小さく呟いた。
悟が何を考え、何を言いたいのか私には分からなかった。
あんなに長い間、一緒にいたはずなのに私の知らない悟の顔。
明らかにいつもとは様子が違ってて……
私は妙な緊張感に襲われ、悟から目が離せなくなってしまった。
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