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悟はマスターにお代わりを勧められたにも関わらず、それを軽く断り私の方に向き直り
「――謝りたかったんだ、本当は……」
申し訳なさそうに小さく頭を下げた。
――謝る?
さっきから悟の言うことは少しずつ言葉が足りず、私に微かな疑問を残し続ける。
それがもどかしくて私は妙な苛立ちを感じていた。
「ズルいよな?俺。結婚をしようって言ってたのに向こうで女作って咲穂を裏切ったくせに、まだ結婚してないだろうって思いこんで、もしかしたらって自分の都合の良いように期待してた、ずっと……」
「ズルいというより勝手すぎる……。勝手に私がいつまでも悟の事を引きずっているなんて思わないでよ」
胸の奥がチリチリと痛むのを感じながら、あの時の自分を思い出していた。
でも悟には、こんな格好いい事を言ったけど、もしユキと出会っていなかったら今も多分……
ううん。きっと私は1人で今もまだ悟の事を引きずっていたと思う。
未だに、こうして悟と二人でお酒を飲めていることが不思議でならなかった。
「そうだな、自分勝手だよな。自惚れ過ぎだよな……」
バツ悪そうに言うと、一度は断ったはずなのにマスターにお代わりを頼みだした。
「そうだよ。――ねぇ、訊いてもいい?二年前に悟に何があったのか……。人の気持ちが変わるものだっていうことは分かってるけど」
凄くドキドキした。本当は怖くて怖くて堪らなかったけど、ずっと知りたかった。
振られた理由なんてロクなものじゃないと分かっているけど、ずっと気になっていたから全部知ってスッキリしたいって気持ちもあったのだ。
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