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「じゃあ隠さずに言えよ!俺たちは夫婦だろ!?違うか?」
俺の勢いにおされてか後退りする咲穂を逃がすまいと両腕を掴み責め立てる。
「――違わない」
眉を潜め、顔を悲痛に歪ませた咲穂が声を震わせながら小さく溢す。
「じゃあ、何で言えないんだ!何であいつにあんなことを言われなきゃいけないんだ!あいつはお前にとって何なんだよ。単なる元彼じゃないのかよ!もう嘘や隠し事はいらない、本当の事を言えよ」
自分の中の不安を誤魔化すかのように、掻き消すかのように俺は咲穂に言葉を投げつけ続けた。
そんな俺に咲穂がやっと重い口を開き、ゆっくりと話しだした。
「三上さんとは本当にもう2年前に終わっているの、ソレは本当の事。別れたのは三上さんが急な転勤で遠距離になってそれで向こうで別の人に気持ちがいってしまって……」
「咲穂はあいつが転勤になったとき着いて行こって……、もしついて行ってたらって思わなかったのか?」
訊かなくてもいいのに聞かずにはいられない。
本当の事が知りたくて……
でも本当のことを訊くのが怖い気もしていた。
咲穂の口から”何でもない”と”単なる元彼”なのだと言ってほしかったのだ。
――嘘偽りのない言葉として……
でも無情にも俺の願い虚しく、現実を突き付けられることとなった。
「――思ったよ。でも両親に反対されて……」
その時のことを思い出したのか咲穂の表情が更に強張り、そして憂いを帯びてゆく。
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