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「――自分勝手だって分かってるけど、店に入ったとき、あまりにもお前たちが幸せそうで見ていて意地悪がしたくなったんだ」
「はぁ?意味が分からない!」
せっかく抑えようと思っていた怒りが悟の言葉によって加速させられる。
「意味わからないよな……。本当、ごめん。旦那に謝っておいてくれ」
悟自身、何で自分がそんなことを言ったのか分からないといった様子。
心底、反省しているらしく深々と頭を下げてきた。
「もういいよ。別にそれが原因で喧嘩になったわけじゃないし……」
そんなことまでされたら怒り続けることもできず、渋々許すしかない。
私の許しを貰えた悟はどこかスッキリした顔で給湯室を出て行ったが、私はユキに言えるわけもなく、変なモヤモヤだけが残ってしまった。
でも少しだけ悟の言わんとすることが分かるような気がした。
今の悟と被るのは、寂しさゆえにとってしまったサユさんの動向。
もしかしたら悟はサユさんのように寂しいのかもしれないと思ったのだ。
可哀想だとは思うが、はっきり言って迷惑でしかない。
「早く平穏な生活に戻りたい……」
呟きながら心の中で悟が帰る日を指折り数えてしまった。
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