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「咲穂が会社の飲み会に行くって言った日、実は仕事帰りに時間が合えばと思って迎えに行ったんだ」
キーワードは悟と二人で会社の飲み会。
ユキの言葉に、ゆっくりと記憶を呼び起こす。
そして思い当たるのは、あの晩の記憶だけ。
「あ……」
思わず声を漏らす私にユキの眉がピクリと動いたのを私は見逃さなかった。
一気に速鳴る心臓と高まる緊張感。
ユキが訊くのを躊躇ったのも、何故あんなにも私と悟との事を疑ったりしたのかも全部、分かったような気がした。
だってあの時、私たちは軽く抱き合った……
確かにユキがあの場面を見ていたのだとしていたら誤解してもおかしくない。
ずっと目の前にかかっていたモヤが一気に晴れ、すべてのつじつまが合ってゆく。
まさか見られているとは思っていなかっただけに、私は動揺を隠しきれなかった。
そんな私を何も言わず、ただ見つめてくるユキの視線に気づき、慌てて顔を上げると思いっきりユキと視線がぶつかってしまった。
「俺が何を見たのか思い当たることでもあった?」
明らかに動揺の色を滲ませる私を目の当たりにしてもユキは戸惑うことなく淡々とした口調で訊ねてきた。
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