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バクバクバクバク。
心臓がもの凄い勢いで脈打っている。
単なる疲れと風邪かな、くらいで妊娠なんて考え、全くも思い浮かばなかった。
「やだ、咲穂さんったら驚きすぎ」
自分の事なのに、まるで他人事のように驚き絶句する私に志帆が笑い軽く私の腕を叩いてきた。
「や、だって……」
未だに動揺を拭い切れない私。
確かに身に覚えがない、と言ったら嘘になる。
ユキの仕事が忙しいとはいえ、私たちは夫婦で夜の営みはそれなりにあった。
義兄夫婦に子供ができたと訊いてから気持ちの焦りからか私の方から求めた事も。
でも、まさかこんなに早く授かることになるなんて思ってもいなかった。
―――どうしよう……
色んな想いが入り混じる。
勿論、嬉しいという気持ちは一番だが、不安だとか仕事の事だとか、ユキの事だとか……
急に舞い降りた妊娠を私はすんなりと受け入れ、手放しで素直に喜ぶことができなかった。
「大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。ちょっとびっくりし過ぎただけだから」
深く息を吐き気持ちを落ち着かせると、心配そうに私の顔を覗き込んできた志帆の笑って答えた。
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