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咲穂の声に導かれ、俺はゆっくりとソファーの方へと足を向ける。
そして咲穂の隣。
父親の向かいに腰を下ろした。
「最近はどうなの?まだ仕事は忙しいの?」
訊きながら俺たちの前にコーヒーとお菓子を並べる母親に「ああ」と言葉短く返す。
できることなら父親の前で仕事の話には触れないでほしいというのが本音だった。
証拠に今の今まで殆ど俺に興味を示さなかった父親が母親の言葉に反応した。
――居心地が悪い……
それに対して何か言うのならまだいいが、何も言わない。
何も言わないから、父親が何を思っているのかなんて分かるわけもなく、余計に居心地悪さを感じてしまう。
いや、ただ単に跡継ぎでもない俺のことなど、どうでもいいのかもしれない。
会社ですれ違う時よりも家でこうして会う時の方が緊張してしまう親子関係なんて、滑稽としか言いようがない。
俺は何とも言えない空気の間をもたせるためにタバコに火を点けた。
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