気配

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――… ―… 「んーっ、終了!」 事務所の真ん中で私は人目を気にすることなく大きく両手を上げて伸びた。 不意に上から落ちてきた言葉に伸び上がったまま仰け反るようにその声の主を視界にとらえる。 声の主は近藤くんで、すごく疲れた顔をして私を見下ろしていた。 「お疲れ様。今戻り?」 振り返り声をかけると「ああ」と、これまた疲れた声が返ってきた。 「もう帰れるの?」 「いや、今日一日ずっと外だったから今からデスクワーク。溜まってるだろうな……」 ネクタイを緩め遠い目で少し離れた自分の席を見つめる近藤くんが少し気の毒になってしまった。 「仕事終わったし手伝おうか?」 「いいよ。旦那、家で待ってるんじゃないか?もう九時回ってるぞ」 近藤くんに言われ時計を見て思った以上に時間が経っていたことに気づく。 「ほら、いいから帰れよ」 「うん、ごめん。今度、手伝うから」 慌てて帰りの準備をする私の手に「これ間違って買ったからやる」と缶コーヒーを握らせた。 「熱っ。ありがとう……。じゃあ、お先に」 近藤くんにお礼を言うと私は足早に会社を後にした。 .
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