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夜の帳が下がり町を闇が包む。
如何に町中と言えど小道へと入ってしまえば光は届かず、延々と闇が続いているだけだ。
人気の無い暗い小道を一人の少女が歩く。
最近妙な噂が出回っているが、そんなことは彼女にとってどうでもよかった。
どうせデマだという気持ちもあったが、何が起こっても対処できる自信があった。
事実、彼女には力があった。
それを証明するかのように彼女の制服の左腕には満月を模したエンブレムが輝いていた。
少女はひたすらに続く道を真っ直ぐ進む。
そろそろ中間地点に達したであろう場所で、ふと少女は違和感を覚えて足を止める。
足音がしたとか声がしたとか明確な変化があったわけではないが、彼女の中の何が危険を訴えかけてきた。
妙な風が肌を撫でる。
肌をざらついた舌で舐められるような、そんな妙にざらざらとした気味の悪い風だ。
少女は身構えた。
何が起こっても直ぐ様先手を打てるよう荷物を横に放り構える。
風が一際強く吹き荒れる。
直後、変化が起こった。
夜の闇が少女の目の前で凝縮され球体を作り出す。
球体が震動し、真っ二つに裂ける。
男が出てきた。
異様な男だ。
左目から顎に架けて大きな傷が刻まれ、それを隠すかのように顔全体が髭に覆われている。
ここ最近雨も降っていないのにレインコートを着込み、フードも被っている。
だが、最も異様なのは別の所だ。
男の手には少し湾曲した幅の広い片刃の刀、青竜刀と呼ばれる湾刀が握られていた。
その青竜刀も通常とはとても言い難かった。
全体的に赤錆に覆われておりまったく手入れをされていなく、その赤錆の上には今さっき人を切ったことを主張するかのようにぬらぬらとした赤黒い血液が付着していた。
男は焦点の合っていない目で少女を睨む。
それだけで少女の痩身が粟立つ。
男を危険と判断した少女が自らの得物を取り出し飛び掛かり、飛び掛かった勢いをそのままに殴り男の体を吹き飛ばす。
という少女の描いたシナリオは叶うことが無かった。
少女が飛び掛かる直前、突如として少女の全身の力という力が抜け落ちる。
まるで筋肉が無くなってしまったかのようにへたり込んでしまった少女は、殴るどころか立つこと、座ることすら叶わない。
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