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真っ暗な画面にノイズが走る。
そして、まず画面いっぱいに
映し出されたのは、
笹森さんの顔だった。
ドキッとするほど無邪気で、
…それでいて、少し
寂しそうな笑顔。
カメラを手に持ち、
自分に向けているらしく、
時々近過ぎてピントが
ぼやけたりしている。
『えっと、今、電車を
降りたところです。
今日はこれから、
春山くんと一緒に
水族館に、行きます』
春山くん、という呼び方に、
心がちくりと痛んだ。
目を上げると、向かいのソファから
白井さんが、見守るような視線を
こちらに向けていた。
「…先生のこと、
…春山くん、て呼んでたんですね」
「…そうみたいだね」
わたしは強引に
笑顔を作って見せた。
『笹森、いつもと違うよ。
…気取らないで、普通に
しゃべらないと』
先生の声に、はっとして
画面に目を戻す。
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