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「……臆病者?」
清穆の表情が少しだけ張り詰められた。
「はい。自分はサゼルメルク1の臆病者だと自覚しています。」
「自分をそこまで卑下するのは好ましくないですよ。」
「卑下じゃないッスよ。事実です。自分は怖くて怖くて仕方が無いんスよ。」
「……どんな事がですか?」
「色々ッス。自分の命が危険に晒される事。自分が人を殺し、その命が目の前で消えてゆく様を見届ける事。その目に篭った怨みを受け止める事。ほんとに色々ッス。」
だからね。セラはそう言って言葉を繋げた。
「自分は『アサルトライフル』を持ってないんですよ。なるべく戦場から離れたいが為に、接近戦用の銃を持ってない事で“逃げ道”を作ってるんス。“言い訳”と、言っても良いでしょう。」
「……。」
清穆は難しい顔で黙りこくった。
「自分は少佐という役職に就きながら、その責任から逃れようとしている卑怯者です。」
セラはそんな清穆を、あの銃を構えている時の無機質な目で見つめる。
「もちろん命令とあれば、火の中だって飛び込みますよ。それが自分の仕事ッスからね。」
「……それは矛盾してはいませんか?怖いのでしょう?」
「怖いッス。火の中に飛び込むなんてとんでもない。でも自分は躊躇なく入ります。それよりも怖いものがあるからです。」
「何ですか?」
「“醜い自分を明確に実感する事”です。」
彼は驚きに目を見開いた。
「自分は弱いッス。体は鍛えれば強くなるかもしれない。けど心はそう強くなるものじゃないッス。自分の場合は能力に、与えられた役職に、心が追いついてってないんですよ。
──……時々夢を見ます。とてもリアルな夢です。現実と認識してしまうほど、ありそうな内容です。」
セラは頬杖をつくと、再び外の景色を眺める。
「自分が戦火で死ぬ夢です。又は自分が恐怖に負けて役目を果たせず、代わりに死んだ者の前で絶望に打ちひしがれる夢です。
その時、自分は夢の中で自分の弱さと、醜さを思い知らされるんです。そして起きて二つの事を思うんです。
『これはこれから起こる未来を予知してるんじゃないか?』
『嗚呼でもどうか、どうか現実にならないでくれ。』」
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