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その子供っぽい仕草からは、対面する清穆と同じ少佐とはとても思えない。
「狙撃場か……。セラさんは勤勉ですね。」
「そんなんじゃないッスよ。ただこの書類仕事で凝り固まった体を少し解そうかなーって思っただけですから。清穆さんの方こそいつも本を読んでますし、自分より知識ありますし、今だって図書館行こうとしてたじゃないッスか。清穆さんを勤勉と言わないで誰を勤勉と言うんスか。」
「褒めても何も出ないですよ。俺の場合は趣味ですから。」
清穆はははっと朗らかに笑った。
「うーん。たまには勉強しないと。清穆さん、自分も図書館にご一緒してもいいッスか?」
「どうぞ。それでは二人で読書会と行きましょうか。」
その時ピィーと鳥の鳴き声が二人の元に届いた。
清穆はおや、と小さく呟くと革の手袋を取り出して嵌め、傍らの窓を開け放つ。
すると、それを待っていたかのようにするりと一匹の鷹が窓から入り、翼を羽ばたかせながら清穆の元へ飛んだ。
彼がその鷹に向け革の手袋を嵌めた方の手を差し伸べると、鷹はストっとそこへ降り立った。
「お帰り、“δ”(デルタ)。」
清穆はニコリと微笑むとデルタと呼んだ鷹の嘴を指先で撫でる。
「今日の偵察は問題無かったかな?」
彼はデルタに向けて問いかけるが、デルタは横に首を振る。
それを見た清穆の表情が少し険しくなった。
「異常は?国境付近?」
デルタは頷いた。
「敵国?」
首を振る。
「そう。一番最悪の状況じゃなくて良かった。ありがとう、デルタ。お前はねぐらにお帰り。」
清穆の言葉にひと鳴きすると、デルタは彼の腕から飛び立った。
「詳しい状況を把握しなければなりませんね。偵察隊を送りましょう。セラさん、残念ながら読書会はまたにしましょうね。」
今までのやり取りを複雑な表情で見ていたセラは、僅かに目を伏せた。
「…………はい。」
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