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「敵は国を渡り歩く放浪の盗賊団のようです。巷では残虐でずる賢い事で有名な一団だとか。
国境付近の小規模の村を壊滅させては国が討伐隊を編成する頃には他国へと逃げ込んでいる。それも敵対する国へと。
険悪な状況にある他国に討伐隊とはいえ軍を送れば、それは挑発と受け取られるでしょう。……なかなかに手強い。」
偵察隊から届いた情報が綴られた書類を眺め、清穆は苦い顔で呟いた。
「現在、一つの村が襲われています。近くの駐屯兵団が対応していますが苦戦。一刻も早く援護に向かわなければなりません。軍隊を編成する暇は無い。」
「つまりは少数の精鋭を送るってことッスね。」
「そうなります。」
清穆の返事を聞いたセラはキュッと帽子を深く被って目元を影で隠した。
「精鋭となると役職持ちの人間ッスね。……しかし盗賊団如きにお偉方をわざわざご足労かけるわけにはいかないッス。ここは最底辺の少佐である自分が行きます。」
それを聞いた清穆はふっと笑みを浮かべた。
「少佐ならここにもいますよ。」
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穏やかな月明かりが降り注ぐ中、それに対して荒々しい炎が建物を貪る。
その炎に照らされながら暴れるように駆ける馬に乗った下卑た男は、高笑いと共に勝どきを上げる。
それに応えて継ぎはぎの鎧を着た男達が歓声を上げた。
「生き残った庶民は駐屯兵団が避難させましたが、村の被害は甚大……ですか。」
双眼鏡をしまうと清穆は背後を振り返った。
「ほんとに俺は出なくて良いんですか、セラさん。」
「任せて下さい、清穆さん。」
彼の問いに応えると、セラは手元に持ったライフルに弾倉を詰める。
ボルトハンドルをたたき落とすと、人気のない廃墟の一室にガシャッと冷たい音が響きわたった。
「敵までの距離、およそ500ヤード。(457.2メートル)ここは狙撃手だけの“戦場”ッスよ。」
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