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「さて。それじゃあその入隊希望者さんに会いに行きましょうか。霧生。貴方は蓮にそのこと伝えてくれる?」
「既にお伝えしています。もう向かっていらっしゃる頃かと。」
「早いわね。貴方のような気が利く隊士がいて助かるわ。」
「恐縮です。」
ペコリと下げられる頭に、その客人の元へ向う為背を向けた彼女。その時、
「……あの、局長。一つよろしいでしょうか。」
「何かしら?」
彼が再び呼びかけ、彼女はまた振り返る。
「今言った訪問者ですが、私と似た感じがしました。恐らく【彼】は人ではありません。」
「霧生と?……そう。」
「敵意は無いように思えますが……万が一という事も忘れずにいて下さい。」
彼の言葉を聞いて彼女は優しげにふっと笑った。
「心配してくれてありがとう。でも私は大丈夫よ。ここの局長だもの。」
「そうですね……。余計な事を言いましたか。」
「いいえ。その言葉が聞けて嬉しかった。──そうだ、忘れてたわ。」
すると彼女は何かを思い出したかのように手を叩くと、先程まで座っていた縁側を指さした。
「あれ、片付けておいてちょうだいな。」
その先には飲みかけの湯呑と手付かずの茶菓子があった。
「よろしいのですか?」
「ええ。少し長くなりそうだから。それじゃよろしくね。」
彼女はそう言い残すと今度こそその場を立ち去る。
彼はそれを見送り、言い付け通りそれらを片付けようとして手を伸ばすが、それがはたと止まる。
彼は茶菓子が乗った皿を見つめて難しげに眉を寄せた。
「片付けろって事は……食べても良いって事なのか……?」
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