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「あら、蓮。」
「おう。お前か。」
彼女が待ち人の元へ向う最中、廊下に見知った人物を見つける。声をかけられた彼は背後の彼女を振り返った。
彼は【如月蓮】。眉目秀麗な彼はこの陰陽組の副長。影から組織を支える重鎮の一人なのである。
「何やら騒がしい奴が来たみたいだな。」
「入隊希望者じゃないかって霧生が言ってたわ。また人が増えたら賑やかになるわね。」
「呑気な事いってんじゃねえ。入隊させるかどうかはそいつの中身を判断してからだ。面倒ごとはごめんだからな。」
「分かってるわよ。私にもそのくらいの判断はできるわ。──と話してるうちに着いたようね。」
そう言った彼女の目の前には一つの部屋の障子があった。
「それじゃ噂の人物にご対面といくか。」
彼は独り言のように呟くと、障子を滑らかに開いた。
「──!」
部屋の中には一人の男がいた。その風貌は商人のように髷を結い、着流しの上に羽織をまとった姿。
その男は二人の姿を認めると慌てて深々と頭を下げた。
「そう畏まらなくてもいい。」
そう彼は告げるが、商人風の男は依然として頭を上げない。
そんな男の目の前に彼女が座った。
「私がここ陰陽組の局長、有馬悠よ。御用は何かしら?」
そこで男は初めて口を開いた。
「こ、ここが……人に仇名す妖を祓う為に集まった組織という話は本当でやんすか……。」
「ええ、そうよ。ここに勤める彼等は妖祓いの為に戦っているわ。」
「では……その為に人や人でない者も一緒に組織に属しているという話も本当でやんすか……!」
「それも本当よ。皆仲良く暮らしているわ。仲間だもの。」
「……!!!」
それを聞いた男が息を呑むのを二人は感じた。
「お願い致しやす!!!あっしをここに置いて下さい!!あっしは……あっしは──!!もうここしか望みは無いんです!!!」
「……それは相手の顔を見て言うことなんじゃないのか。」
悲痛な声で叫ぶ男に対して、彼は無機質な声で告げた。それを聞いた男はビクッと震えて勢い良く面を上げた。
「「!」」
そうしてあらわになった顔を見た二人は微かに目を見開いた。
部屋に入った時にはチラリとしか顔を見られなかったので気付かなったが、男の頬には大きな湿布が貼ってあり、口元には切れた跡。誰かに殴られた後である事は容易にわかる。
良く見ればまとっている着物も争った時に付くような擦れた跡があった。
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