16人が本棚に入れています
本棚に追加
男は恐怖に顔を歪めて謝罪する。
「失礼しやした!!あっしとしたことが……!!とんだ御無礼を!!!」
「怯えないで頂戴。そんなに恐がれたら私達の方が悲しくなるわ。」
彼女は苦笑を浮かべると男の肩にぽんと手の平を置いた。
「やっと顔を見せてくれたわね。貴方の名前を教えてくれるかしら?」
「あっしは……卓仁郎といいます。」
恐る恐る卓仁郎が名乗ると彼女はにっこりと笑う。
「そう。じゃあ卓仁郎。まずはどうしてここに来たのか教えてくれるかしら?」
彼女の問いに卓仁郎は途端に頭を垂れた。
「あっしは……かつては小さな社に仕えておりましたが……それも取り潰されて力を失いやした……。最近までは人に化けて暮らしてたんでやんすが……」
「追い出された訳だな。」
彼が卓仁郎の続きの言葉を紡いだ。それを聞いてますます卓仁郎の表情は暗くなる。
「へぇ……。少々へまをやらかしちまいやしてあっしが【化け狐】だと周囲の人間にバレて……このような有様で。」
自嘲気味に笑う卓仁郎だが、二人はその話を聞いて笑う事は出来なかった。
「あっしはもう人として生きてゆく事は出来ねえんだと悟りやした。残るは妖として生きる道だが……あっしは弱い。なぁんも戦う力なんざ残ってはいやせん。そんなあっしが妖の闇に踏み込めばすぐに呑まれて消える。それに──」
訥々(とつとつ)と語っていた卓仁郎の声がそこでぷつりと途絶える。数拍の沈黙がその空間を支配したが、やがて卓仁郎は震える声で再び口を開いた。
「──笑ってくだせぇ!!あっしは……あっしは!!それでも人への情が切れねぇんだッ!!!!!何ででしょうね……!それでも人に望みを持っちまうんですよ……!!だから──!!」
彼は項垂れた頭を上げて目の前の彼女を見つめる。
「人にも妖にも成りきれねぇ!!そんなあっしでもここなら居られるかもしれない!【陰陽組】の事を知り、そう思ったら居てもたってもいられず……。いきなり押し掛けて失礼なのは百も承知!あっしは戦う事も出来ねぇただの狐でやんすが、言われれば何でもやります!!だから──あっしをここに置いちゃぁくれやせんか!!!」
最初のコメントを投稿しよう!