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しん……とその場が静まり返った。
しかしそれも一瞬の事で、彼女は卓仁郎のすがり付くような視線を見つめ返した。
「駄目よ。」
「……!」
彼女のセリフに卓仁郎は途端に絶望に打ちひしがれる。
だが
「【何でもやります】だなんて言っちゃ駄目よ。ここはね、その人が合った役職に就けるの。そして陰陽組に入ったからには皆が【仲間】なのよ。仲間に望まない仕事なんてやらせられるわけないじゃない。」
「……じゃあ!!」
彼女が続けて告げた言葉に卓仁郎の心は浮上した。
「蓮。貴方もう少し手が欲しいって言ってたわよね?」
「という事は俺がこいつの面倒を見るのか……。ま、しょうがないな。」
彼は一見面倒臭そうに言うが、卓仁郎に視線を向けて穏やかにふっと笑った。
「これからよろしく。卓仁郎。」
「……!!!」
卓仁郎は歓喜に声が詰まって言葉が出ない。
わなわなと震える唇、自然と伏せられる瞳。
「……ありがとうございます……!!」
卓仁郎は額を畳に付かんばかりに下げ、やっと声を取り戻した。
「このご恩は一生かけても返させていただきやす。こちらこそこんな情けないあっしですがよろしくお願いします……!!!」
「もう……。貴方さっきから頭下げてばかりね。そんな堅苦しく感じなくても良いのよ。」
彼女はそんな卓仁郎の様子を見て優しく微笑む。
「これから先、親しく話せる仲になれるといいわね。」
「……は、いっ……!」
掠れる声に紛れてポタリと落ちるひと雫。
卓仁郎はこの二人の心の広さと器の深さを身に染みて感じ、このご恩を返す為、必ずやお役に立てるよう精進しようと固く心に誓うのであった。
──終──
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