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呆れたように見つめる俺の視線に気づき、
あくびをする方向を変えて
再度、バカみたく欠伸を続ける”リヒト”に近づく。
猫科の動物のように吊上がる大きな眼が、
チラリと横目で俺が近づくのを、確認してから
アクビをすることを一旦止めて、俯き,
ガムテをまた千切り始める。
アッシュグレイの柔らかな髪がふわりと揺れる。
空調が”リヒト”の真上にあるのだろう。
絶え間なくゆるいウエーブがかかった髪を
靡かせている。
毛先の長いネオウルフカットであるせいで、
前髪が長く、風が吹く度に
ゆらゆら揺れる調子だからか
ひっきり無しに前髪を直していた。
すぐ際まで行くと、
”リヒト”のお気に入りの香水の香りに包まれた。
いつも、
みずきから香る残り香を、唐突に思い出した。
彼女ともまた、
リヒトと同じ年月を、共に過ごしている...。
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