The Dying Light

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無性にタバコを吸いたくなった。 ポケットに手を突っ込んだが、 最後の一本を吸った事を思い出した。 ほんの数分前に、ヤニを満喫したばかりだ・・・。 もう、【LOOOSER】にやってくることはない。 今日、最後のライブを終えるつもりだった。 そしてこいつらと、酒でも飲んで騒いだ後、 みんなの目の前から消えるつもりだった・・。 だけど・・・、そういうわけにも行かなくなった。 「お前が・・・【EINS】を抜ける?」 ノブが戸惑った表情のまま、セットした前髪をぐしゃりと潰す。 答えなんか考えたってたどり着くもんか・・ ノブの為にバカ丁寧に説明することにした。 「・・・・・事務所から言われてたんだ。 デビューするまでは誰にも言うなって。 だからお前らに言うのはルール違反なんだけどさ。 言わなくちゃ、地の果てまでも追って来そうだもんな。」 自分の皮肉を笑ってみたが、誰も笑わない。 「デビュー?」 トアが、掠れた声を出す。 「ビジュアル系バンド。一応ボーカル。プロデビューすんの」 短く答えた。 それ以上何を自慢するべきだ? 「一抜け・・・かよ・・・。」 クラウトが、食いしばった歯の隙間から声を漏らす。 「悪いな、俺だけだ」 あえてヒール(悪役)に、なってやる。 にやりと笑い、 クラウトが掴み掛かって来る事を予想した。 だがクラウトは、 乾ききった砂漠からありったけの水滴を絞り出すように、涙を流し始めた。
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