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プロダクションの社長の名前が「後藤・貴文」ということから、
「GOTOプロダクション」
なのだが、英語の「go to ~」の、
「行くぜ!」といった意味合いも含まれるという。
俺はというと、ここに来る前に
「イッた」わけだけど。
タクシーの領収書を、
どぎついピンクのシャネルの財布に突っ込んで、
リリカが厚底されたニーハイブーツで歩きづらそうに
スロープを登ってきた。
「待って、ホント。
ここの坂、ハンパなくきついんだけど...」
すでに息切れを起こし、
腰に掴まるりりかの腕を引っ張る。
腰を曲げて登ってくる姿は、
キャバクラの店で見せるリリカとはかけ離れているだろう。
笑顔を振りまき、ハイヒールで
闊歩することに慣れているリリカを、
汗だくにさせて腰の折れた婆さんのように一歩一歩
足を引きずりながら進ませるなんて。
ニクイ演出をしてくれる。
この事務所に最初に訪れた時。
坂道に恐れをなして、
「駅前の喫茶店で待ってるから」と、言い放ったぐらいで、
タクシーの入れない路地から先は自力で登る他無い為、
今日も喫茶店で待つだろうと思った。
だが、今日だけは、
いくらリリカでもこの坂を登るしかなかったようだ。
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