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「くそ!!!」
部屋の脇で、ゴミ箱を蹴り倒したITSUKI(イツキ)のせいで、
最悪のスパイラルに陥っていた俺の思考が途切れた。
音のした方向に振り返ると、顔を覆ったまましゃがみ込んでいるイツキが唸っていた。
クロムハーツのブレスレットをジャラつかせ、
黒いネイルチップがついた爪先で、頬を突き刺しすようにしたまま。
どうにもならない事務所の決定に、頭を抱える他無い様子だ。
時折、鋭く「っち」と舌打ちをしては、
視点の定まらないうろんな表情で、遠くを見つめていた。
その様子を見て。居ても立っても居られない気分になった。
「なあ・・ITSUKI」
俺に声をかけられて、ほんの少し逃げ腰になったが
俺の心配げな表情を確認し、噛み付かれることはないだろうと察知したのか安堵した表情を見せる。
「あんたも?」
イツキの短い言葉に全てが集約されていた。
”あんたも、好きな女がいるのか?”
「まあね」にやりと笑い、答えた。
口数は少ないが、なんとなく同じものを感じられて
ホッとする。
お互い大事なものがある。
夢を追いかけているあいだに、
見つけてしまった、かけがえのない宝物。
元デスメイク野郎との、
思いがけない共通点があったもんだ。
「デビューするまでの間、なんて言って消える?」
”消える”という言葉が、しっくりくる。
みずきの前から忽然と姿を消す。
彼女が心配しないよう俺は姿を消さなくちゃならない。
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